――ミッシング・リンクという言葉を、聞いたことがあるでしょう。
連続しているはずの物事の途切れめのことですが、ここではヒトがサルから進化する過程で、いまだ証明されないある分岐を指します。
さて、この分岐について、とんでもない仮説をたてたSF小説がありました。
さらにとんでもないことに、それを学説として発表した強者の考古学者が、オーストラリアにいるのです。
近年、このミッシング・リンクを埋めるものと推測される化石が――
優しくて、丁寧で、どこかのんびりした語り口調。
先輩だ、と直感した。
母と古関さんが移り住んだ家には、客間がふたつあって、ひとつは私や兄が帰るための部屋になっている。
ひざに、恐竜の表紙のムック本の奥付のページを開いて。
ベッドに腰かけて、ひたすら携帯とにらみあった。
ライターと連絡をとりたいと編集部に言えば、たいていは紹介してくれることを、知ってる。
その人が社員や専属契約だったりしたら話は別だけど、フリーランスなら、誰のデメリットにもならないからだ。
だからこそ、怖かった。
この電話をかけたら、先輩とつながってしまう。
先輩が、それを望んでいるのかどうか。
わかってしまう。
指が震える。
マスール、勇気をください。
自分には勇気があると、信じさせてください。
『編集部です』
「あの、あの、2月発売号の準特集の記事を書いていらした、バンさんという方と、お話させていただきたいのですが」
覚悟を決める前に電話がつながってしまい、慌てた。
電話口の向こうの女性は、にこやかな声で、お待ちくださいませ、と言ってくれる。
『恐れ入りますが、御社名とお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか』
息が詰まった。
何も考えてなかった。
真っ白な頭で、父の会社名を告げて、水越と名乗る。