「はい、卒業見込みおめでとう、お疲れ俺ら」
口々にお疲れ! と唱和してビールで乾杯する。
外は雪でも降りそうな気配だけど、暖かい店内には冷たいビールがぴったりだった。
「面接、すげえ突っこみ厳しかった。聞いてたのと全然違ったよ」
「あたしけっこう楽だったなあ。みずほのテーマ、なんだっけ」
「『欧米と日本における通信社と新聞社の機能の違い』」
「俺『放送産業の変遷と推移~“視聴率”を生み出した広告代理店の循環ビジネス~』。水越はやっぱ国際系?」
「『為替レートの変動要因と日米貿易の経済分析』」
へー、とわかりもしないままうなずいて、笑う。
年が明けてすぐの今日、卒論を提出して、面接を終えて。
あとはもう春休みを経て、卒業を待つばかり。
私は都内の出版社に、真衣子と加治くんは偶然にも、同じ地元の大手地銀に就職が決まっている。
「水越は、東京に行くと思ってたよ」
「どっちも受けてたの。悩んだけどね、やっぱり親の近くにいようかな、とか」
「槇田先輩が県庁にいるからじゃないの?」
冷やかす加治くんに、うるさいな、と頬を染めた真衣子が突っかかる。
槇田先輩は、4年生の春に、都内への就職が決まっていた。
でもあえて卒業を遅らせて、翌年公務員試験を受けた。
たぶん、彼なりに。
県内のどこかにいる、千歳さんと、その子供のために。
何か働きかけられる、そんな仕事に就こうと考えたんじゃないだろうか。
そう言った私に、さあ知らない、と真衣子は微笑んだ。
私の両親は、私が成人するのを待たずに離婚した。
ああいう理由なら、早く動くに越したことはないと、私と兄が薦めたからだ。
今では母は古関さんと再婚し、よく父と3人で山だの川だのに遊びに行っている。
「みずほのお兄ちゃん、結婚しないの?」
「なんか、それどころじゃないみたい」