『最初にキスしてくれたのは、先輩ですよ』

『くれって言われたから』

『その前です』



若干忘れていたんだろう、沈黙が降りる。

泣いていた私をなぐさめるために、頬にくれたキス。

あれは、別に私がせがんだわけじゃない。

思い出しましたか、先輩。



『あれではずみがついたと思えば、発端は先輩です』

『じゃあ、やんなきゃよかったね』

『そんな』



ひどい、とむくれる私を、先輩は笑った。

嘘だよ、と言ってくれはしなかった。

熱い腕で、優しく私を抱きしめるくせに、その状態を歓迎してはいないことを、どこかでいつも、私に告げていた。


今どこにいますか、先輩。

何をしてますか。


先輩がひとりになりたいのなら、そういられているといい。

さみしいのなら、誰かがそばにいてあげてくれてるといい。


どうか大学で過ごした2年半が、明るい記憶として、彼の心に刻まれていますように。

きっと少しは、楽しいこともありましたよね、先輩。

だってだからこそ、千歳さんに同じ経験を、させてあげたいと思ったんでしょう?

同年代の子とはしゃいで、何も考えず笑うばかりの毎日を、見せてあげたいと思ったんでしょう?


優しい先輩。

何もかもひとりで抱えこんで、バカな先輩。


僕の話をします、なんて書いておきながら、やっぱり肝心のことは、教えてくれなかった。

背負ってきた苦労も、千歳さんに残してあげたことも。


私は怒ってます、先輩。

だから、いつまででも待ちます。


先輩なら、それを笑えないでしょう?

だってあなたがしたことと、同じだもの。



ねえ先輩。

会いたい。