『それでも好きだわ』



すべてを知った真衣子は、そう言った。

あの日私は、雨に濡れる槇田先輩にかける言葉が見つからず、でも彼をひとりにしておくのも心配で、迷った末に真衣子を呼んだ。

入れ違いに去った私は、ふたりがどう顔を合わせたのかは知らない。

だけど槇田先輩は、ものすごく正直に自分の罪を告白したんだと、あとで真衣子から知らされた。



『あたしが知らなかっただけで、要するにあの人は、最初からそういう過去を持ってたわけでしょ。なら何も変わらないよ』

『槇田先輩のしたことを、許せる?』

『みずほは?』



私の部屋で、枕を抱えた真衣子が微笑んだ。



『あの先輩のしようとしたことを、許せる?』



ねえ真衣子。

許すとか、許さないって、なんなんだろうね。

私は小さい頃から散々“ゆるし”について説かれてきたのに。

うまく説明することすら、できない。



『お互い、面倒なの好きになっちゃったね』



うんざりとため息をつく真衣子の、強さに憧れた。

槇田先輩のしたことは、何かがちょっと違えば、ここまでの悲しみを生み出さなくても済んだはずだった。



――“兄が私以上に、あの出来事に縛られているのを、感じていました”



私の話を知ってます? と確かめたあと、返答に詰まった私に、千歳さんはそう、つぶやくように文字を打った。



“兄の性格なら、何かしらの決着をつけたがるだろうと思っていました。でも、大学で解放されたんだとばかり。違ったんですね”



何も言えず、うつむくしかできない。

千歳さんはあきれたように、小さく息をつく。