「Bって一時、ちょっと荒れてたんだよ。知ってた?」
「荒れてたって…」
具体的には? と尋ねると、大河内先輩があははと笑った。
雑多なサークルのテーブルが並ぶホールで、ぽりぽりとジャンクなお菓子をつまみながら、そうだなーと宙を見つめる。
「まあ言っても田舎だし、限界があったけど。ぎりぎり鑑別所送りを免れたくらいのことはしてたって話だったよ、中学の頃」
「鑑別所?」
「少年院の手前、てとこかな」
目を丸くする私を、大河内先輩が笑う。
聞けば彼は、中学、高校とB先輩と同じ学校で。
でも向こうは俺を知らないけど、と仕方なさそうに言った。
「学校では模範生っぽいくせに、素行は微妙だし、家庭も複雑そうだし、名前も変わってたしで、あいつのほうは有名だったんだよ」
「その頃から、Bって呼ばれてました?」
「だね、BとかBBとか。最初はからかい半分だったのが、本人が気にしないから定着しちゃった、みたいな」
なるほど、想像できる。
「高校入る前からバイトしてたりね。そんな歳で生活費稼ぐとか、やっぱちょっと特殊っていうか、周りと違う奴だったよ」
「妹さんのことは…」
「あんな小さな町で、噂が広まるのなんて一瞬だよ」
そんな町の片隅で、結婚もせず子供を産んで育てることが、どれだけつらく、難しかったか。
先輩や千歳さんたちが、どれだけのものと闘わなければならなかったか、思うだけで胸が痛い。
「高3の最後のほうは全然学校で見かけなくなってたから、大学で会ってびっくりしたんだけど、それがいきなり中退とか」
さらにびっくりっていうか、あいつらしいっていうか、と苦笑いする大河内先輩も、B先輩がこの大学に来た理由を知らない。
なんでやめちゃうかなあ、としきりにくり返す口調は、残念そうでもあり、悔しそうでもあり、温かい。
「ねーみずほ、集中体育の合宿さ」
ぽんと肩を叩いたのは、真衣子だった。
県のはずれで行われるその合宿の前夜、実家に泊まりに来ない? と綺麗な顔が笑う。