ドアの向こうの壁を埋めつくす、緑、緑、緑。

それから…



「…恐竜?」

“考古学を学びたがってたんです。それがどうして商学部に行ったのか”



促されて、おずおずと部屋に入る。

先輩、お邪魔しますと心の中で謝った。


元は和室だったのを板張りにしたらしい、見るからに居心地のよさそうな部屋。

マットレスの置いてある対面の壁が、一面の緑で埋めつくされている。

森や熱帯雨林の、ポスターやポストカードといった写真が所狭しと貼られて、ひとつの大きな緑の風景をつくっているのだった。

そしてそのところどころに、恐竜が顔をのぞかせていた。


同じ壁の左右に、古めかしいスピーカーが立っている。

お父様の形見だと、千歳さんが教えてくれた。


オーディオセットの上には、恐竜の骨格標本の模型が大小さまざまに鎮座している。

大きな窓に向いた机の上にも、枕元の床にも、必ずどこかに恐竜の姿がある。

地球儀と月球儀が並ぶ本棚は、画集や図鑑をはじめとした、あらゆる本が詰まってる。


圧倒された。

これがB先輩。


好きなものも、大事なものも、全部ここに置いて。

何も持たずに、あの部屋に来たんだ。


彼が商学部を選んだ理由なら、わかる。

あの大学で一番大きな学部だからだ。

そこが一番、探している人の近くに行ける可能性が、高かったからだ。



“兄はなんとか、私を他の子と同じ道に戻そうとしてくれました。自分だって一歩が産まれてから、高校に行くどころじゃなかったのに”

「もしかして千歳さん、高認を受けられました?」



にこりとうなずく。



“こう見えても、学校に行っていた頃は成績がよかったんです”