「B先輩は、お酒強いんですか」
「どうだろね」
普通じゃないかな、と言いながら私のグラスにも注いでくれる。
満杯に近いピッチャーを、危なげなく片手で扱うのを見て、またなんだか、複雑な気持ちがした。
乾杯、と先輩がグラスを合わせてくれる。
当たり障りのない話をしながら、しばらくたつまで、私はお手洗いに行くというそもそもの目的も忘れていた。
「おっさん、あのギター何?」
「べろんべろんになった奴が、忘れてったんだよ。お前んとこの学生だろ」
“おっさん”というのは、別にバカにしているわけでなく、ここの店主さんのあだ名らしい。
ごま塩の頭で、恰幅のいい身体に板前さんみたいな服をぴしっと着ている。
カウンターの端に立てかけてあったギターを指していた先輩のひとりが、遊んでいい? とそれをとりに行った。
「好きにしろ。壊してもいい」
「壊さないっすよ、おいB」
おとりしましょうか、と申し出た私に、ありがと、とお取り皿を差し出していたB先輩は、急に呼ばれて振り返り。
「一曲行け」
といきなり突きつけられたアコースティックギターに、へっ? と目を丸くした。
いつの間にか、周りはかなりできあがっているらしく、無責任にわーっと歓声と拍手が沸き起こる。
歌え! と言われて無理やりB先輩の横に移動させられたのは、田端先輩という2年生だ。
たぶんカラオケなんかでも同じノリなんだろう、ええ…と困りつつも、もうあきらめて歌う体勢だ。
B先輩が、なんで俺? と首をかしげる。
「弾けんだろ、お前」
「俺、そんなこと言った?」
ぽかんとしながらも、押しつけられたギターを受けとると、あぐらの腿にそれを乗せて、ぼろんとつま弾き。
その物慣れた仕草に、ほんとに弾けるんだ、と思った。
「何弾けばいいの」
とたんに、オールディーズやJ-POPの曲名が飛び交う。