「よう、嬢ちゃん」

「善さん!」



軽トラックにクラクションを鳴らされたので飛びのいたら、まさか学内で見るとは思わない顔と出会う。

荷台には紙とビニールで包まれた、ふすまくらいのサイズのものが積まれていた。



「どうして善さんが、大学に?」

「史学部の先生方が、県の歴史館の監修もしててな、所蔵品の修復なんかに、俺を使ってくれてるんだ」



今日は納品だ、と運転席から白い息を吐いて笑う。



「Bの奴、どこ行っちまったんだ?」

「…最近学校をやめたって、聞きました」

「最近? もうずいぶん、まともにうちに帰ってきてないけどな」

「そうなんですか」



先輩の部屋に行っていた頃以来、善さんとも会っていない。

学校には来ていなくても、あの部屋にはいるんだと思っていた私は、今知った事実に愕然とした。

じゃあ、じゃあ先輩は、どこにいるんだろう。



「この間、正式に出てくって、わざわざ挨拶に来たよ」

「お元気そうでしたか」

「まあ、変わりない感じではあったなあ」



ただなあ、と無精ひげをなでながら宙を見あげる。



「なんつーかな、嬢ちゃんが来る前のあいつに戻っちまったみたいだった。せっぱ詰まったっつーか、思いつめたっつーか」

「B先輩が?」



カラカラと軽いエンジン音を立てるトラックの中で、うーんと善さんが腕を組む。

彼の表現に驚いた。

ふわりと柔らかくて、いつも微笑んでいるようなB先輩の、陰にひそんでいた闇に、気づいていたんだろうか。



「もともとあの部屋は、息子用につくったものだったんだよ。嫁つれて帰ってきてもいいように」

「息子さん、他県で修行中なんでしたよね」

「正月もろくに帰ってきやがらねえ、親不孝者め」