「なりふり構ってられなかったんだろうね」
「自分がどれだけ特殊な存在だったか、わかる、みずほちゃん?」
私を煙草で指して、にこりと奈々先輩が微笑んだ。
誰とも、なんの経験もない、当然男の人の情報なんて持っているわけもない私と、B先輩が一緒にいるようになった時。
彼女たちのネットワークでは、どよめきが起こったらしい。
「あの、みなさんは、ご存じだったんですか、その、B先輩の…」
目的を、と小さな声で言うと、ううん、とふたりとも首を振る。
「誰か探してるってだけ。見つけてどうするのかは、教えてくれなかったなあ」
「訊かせない雰囲気があったよね、あの男には」
そうそう、と笑いあう。
暖かい晩秋の午後。
窓から柔らかい日差しが、白いテーブルを照らす。
B先輩の、人探しは。
当人に知られる危険を冒すわけにいかなかったせいで、ひそやかに、用心深く進められた。
これだけ華やかな女の人たちを相手にしても、肝心の人探しの噂が、ちっとも流出していなかったことでもわかる。
顔が広くて、口が固くて、約束を守ってくれる人。
そういう人だけを、慎重にB先輩は選んでた。
「それだけじゃないよ、Bを好きになれる人じゃないと、ダメだったの」
「B先輩を、好きに?」
「『俺を好きになってくれる?』って、訊くんだよ。これは私たちの間では有名な話」
「別にね、そういう関係にならなくても、情報だけあげる女だって、いたわけ。でもBって、ちょっと知りたくなるでしょ」
「だからたいていの子は、自分としてくれるならって条件をつけたんだよ。そうするとBは必ずそう訊いてくるの」
「なれないならしない、情報もいらない、ってね」
律儀にもほどがあるよね、とふたりが笑う。
それだけじゃないことに、私は気がついた。
妹さんの人生を狂わせた、そういう行為を。
いくら情報を得るためとはいえ、ただの道具として使うことが、先輩にはどうしてもできなかったんだ。
だから、自分も相手を好きになるし、相手にも自分を好きになってもらう。
それができないなら、情報もあきらめる。
それが先輩の、ルールだったんだ。
生真面目で優しい、B先輩の。