さあっと音をたてて、頭の中がクリアになった気がした。

お母さんたちだって、初めて。

結婚だって一回しかしてない、子供を産んだのも、たったの二回。


そんなものなんだ。

彼らも、いつだって手探りで、知らない道を歩いてる。



「お兄ちゃん、古関さんにも彼女会わせないとね」

「うーん…」



ひじでつつくと、照れくさそうに顔をしかめる。

青白いライトに照らされる地下鉄のホームで、優しい声を思い出した。



――ご両親の愛情を、疑ったらダメだよ



B先輩、あなたの言ったとおりでした。

そこに愛情は、ありました。

両親は、私たちのために、ちゃんと親でいてくれようとしていました。

でもやっぱり、望んだり迷ったりしながら歩く、ひとりの人間で。

ただそれだけだったんです。


新しい人生に踏み出したいという父の願いも。

母を傷つけまいと遠ざけた気持ちも。

愛してくれる人のそばにいたいと、素直に願う母の想いも。

今ならわかる。


ねえB先輩。

会いたいです。








「え、知らないの、Bの連絡先?」



はい…と小さくなって答えた。

新築の校舎の綺麗なカフェで、私の前に座ったふたりの先輩は、顔を見あわせた。



「この子ならって言ってたの、誰よ、絢子」

「あんたでしょ」



そうか、と肩までの綺麗な髪を揺らして、華奢な煙草に火をつける。

この間、B先輩といた人だ。