珍しく兄が、追及の手をゆるめない。

うーん、と手元に視線を落として、考えるそぶりを見せた母は。

やがてにこりと、優しく笑んだ。



「だって、親なんだもの」



それだけよ。

にこっと少女のように笑うと、勝手に話を終わらせて、やっぱりもう一杯飲みたいわ、なんて言ってる。

古関さんがそんな母を、楽しそうに見つめる。

私と兄は、ぽかんとしていた。








「古関さんの奥さんって、亡くなってるんだっけ」

「けっこう前だよね。お子さん、私たちと同じくらいの歳だよね?」



そうか、と兄が街の光でぼんやりと明るい夜空を見あげる。

ふたりでデートでもしてきなよ、と母たちを送り出し、兄と私は先に家に帰ることにしたのだった。



「なんか、いろいろ予想外だった」

「お父さんが、最初から全部言ってくれてたら」

「いやでも俺、父さんの気持ちはなんとなくわかる」



そうなの? と問うと、兄は無言で地下鉄の駅へ入った。



「お前さあ、ちょっとすねてただろ」

「だって私だけ、何も聞かされなくて」

「子供だからって思ってたんだろ? それ違うぜ、たぶん」



どう違うの、と尋ねると、腕を組んでうーんと悩む。



「子供じゃなくなっちゃったからこそ、言いづらかったんじゃないかな。お前に、見損なわれそうでさ」

「私、そんなこと思わない」

「そりゃ向こうもわかってるよ。でもお前が家を出て、もう一人前なのに気づいて、母さんたちも動転したんだよ」

「そんな」



そんなことで動転しないでほしい、親なのに。

ふてくされる私に兄が笑う。



「勘弁してやれよ。母さんたちだって、末の娘が家を出るなんて、初めての体験なんだから」