復讐なんて、何も生みません、とか。

妹さんはそんなこと、望んでるんですか、とか。

私が思いつく言葉なんてバカバカしすぎて、とても口に出せない。


先輩はそんなこと、もう何回も考えたに決まってる。

3年以上もの間、きっと何度も自分に問いかけて。

気が遠くなるほどひとりで、考えて、考えて、考えて。


それでも、やるって、決めたんだ。


怒りに、押し流されてるんじゃない。

先輩は、怒りを絶対に手放さないよう、心に巻きつけて。

ずっと引きずって、たったひとりで、歩いてたんだ。


想像もできない、きっと壮絶なまでの、孤独と痛み。



「あんまり綺麗なものでもないから。あっち行ってたほうがいいと思うよ」



ふいに先輩が、私に話しかけた。

視線は、槇田先輩から外さないまま。


突っ立ったまま首を振る私に、ちらりと目だけで要求を伝えてくる。



「あっち行ってて」

「…嫌です」

「行って。もうこれ以上、俺の邪魔しないで」



固い声。

こぼれそうになる涙を、ついすすりあげると、先輩が苛立ったのがわかった。

私、そんなに邪魔でしたか。

これまでも、そんなに邪魔してましたか。



「B先輩…」



横顔は、何も答えてくれない。

しゃくりあげるような引きつりが、喉の奥にこみあげた。

先輩、先輩。



「やめてください…」



こんな泣き声、また鬱陶しがられる。

でもどうにもならなくて、なんとか声を絞り出す。

やめてください、とくり返しても、先輩は眉ひとつ動かさず、切っ先を槇田先輩から離さない。