ざあ、と頭上の木の葉が鳴った。

大粒の雨が吹きつけて、B先輩の髪を乱す。


B先輩。

ねえ、B先輩。

こっちを向いてください。



「今、お前の子供を育ててるよ。可愛いよ、3歳になった」



槇田先輩が、息をのんだ。

その唇が、何か言おうとして開かれたけれど、声にならないまま、また閉ざされる。

一歩、B先輩が距離を詰めた。

じり、と槇田先輩があとずさる。



「何か言うことは」

「俺、俺…あの時は、酔ってて」

「知ってるよ。妹も軽率だったってことも、知ってる」

「…あの子が、そう言ったのか」



どこかほっとしたような、でも消せない罪の意識に潰されそうな、槇田先輩の声。

B先輩が、噴き出した。

「“言った”?」とさもおかしそうにくり返して、声を立ててひとしきり笑う。



「“言った”ね、そう、そうだね」



ひとり言みたいにつぶやいて、まだ笑うB先輩を、槇田先輩が訝しげに見た。

B先輩は、にこりと見返して。



「千歳は、あの日から全然喋らないよ」



人が変わったような、鋭い声を発した。



目が回るような感覚があった。

ぐるぐる、ぐるぐる。

妙に現実味がなくて、先輩の声が、エコーがかかったように頭の中でくり返し響く。


先輩の、妹さんの、子供。

甥っ子って、その子のこと。

妹さんが、私と同じ歳くらいだとするなら。

16歳とか、そのくらいの頃に…産んだってこと。