「ここ、いい?」
「どうぞ」
本館の古めかしい食堂で真衣子とお昼をとっていたら、槇田先輩と他数人が合流してきた。
4名がけの丸テーブルに、適当に椅子を足して座る。
「報道概論? 俺もとってた、それ」
「ほんとですか、すでにかなり難物の気配で」
「ほとんど教授のひとり言だろ。聞きとりづらいんだよね。指定のテキストより、わかりやすい本あるから、あげるよ」
午前の講義のノートをつきあわせてああでもないこうでもないと復習していた私たちに、槇田先輩が提案してくれる。
背が高くてテニスも相当上手で、さらに教えるのもうまく、確実に“かっこいい”先輩だ。
この一年で卒業しちゃうのが惜しいくらい。
先輩の隣で、真衣子は珍しく、少しはしゃいだように頬を染めていた。
「一冊しかないから、仲よく分けあってね」
槇田先輩の冗談に、どうやってだ、と他の先輩が笑う。
と、そうだ、と槇田先輩がカレーのスプーンを泳がせた。
「Bもとってたよ、概論。その本、虎の巻として有名だったから、たぶん持ってる。訊いてみたら」
その名前にどきっとする。
「今度会えたら、訊いてみます。ね、みずほ」
「うん…」
ぎこちなく返事をしつつ、他学科なのに、B先輩がこの講義をとっていたことが、なんとなく嬉しくもあり。
私、ちょっとB先輩のこと気にしすぎだな、と考えた。
一日の最後の講義のあと、なんとなく帰りがたくて、中央ホールに割り振られたサークルのテーブルで本を読んでいた。
他にもそこで時間をつぶしている人たちが数名いて、いつの間にか、飲んで帰ろうという話になっている。
「みずほちゃんも行ける?」
「はい」
真衣子はいなかったけれど、女の先輩も何人かいたので、一緒に行くことにした。