数日間、小雨が降り続いた。

どんよりと空を覆う雲が、ただでさえ沈鬱な気分を、さらに滅入らせる。



「槇田先輩」



声をかけると、傘を持たずに歩いていた先輩が振り向いた。

同じく傘をささずに霧雨に湿っている私を、仲間、と呼んで笑う。



「今日こそ晴れるかなって思って」

「俺も同じ。傘持つと、雨降らす用意してるみたいで」



なんか負けた気がして、と爽やかな声が笑う。

すごくよくわかる。



「あの、お訊きしてもいいですか」

「真衣のことでしょ、いいよ」

「どうして真衣子を、彼女にしないんですか?」



向こうが単刀直入に来たので、同じように返すと、さすがだなあと先輩が苦笑する。



「何がですか?」

「いや、真衣がね、みずほちゃんのこと、すごく褒めてて」

「どんなふうに?」

「お辞儀からの猪突猛進だって」

「…褒めてますか、それ」



憮然とした声を出すと、くすくすと笑われた。



「うらやましいんだよ、真衣はああ見えて、すごく慎重で、失敗を怖がるタイプだから」

「よく見てますね」



なんだか嬉しくなってそう言うと。

ふいに槇田先輩は微笑みを消して、ちょっといい? と私を木立の中に促した。


古風な街灯がほのかにともる、木々と生垣に囲まれたスペース。

誰にも聞かれないようにだろう、槇田先輩はそこに入ると、あのね、と切り出した。

木の葉が雨をよけてくれるおかげで、あまり濡れない。

真衣子の話をしてくれるんだろうと、なんでしょう、と返事をしかけた時。





「その子から離れて」





冷たい、だけど聞き慣れた、声がした。