長い沈黙が降りた。

その間にも空はぐんぐん黒さを増して、一気に時間が進んだみたいにあたりが暗くなる。

やがて先輩が、俺、とぽつんと言った。

こわごわ見あげると、言葉を探してか、その瞳は私の足元あたりをさまよっていた。

少し寄った眉は、つらそうにも痛そうにも見えたんだけど、もしかしたらそれは、私の願望だっただけかもしれない。


先輩が、バッグにかけていた右手を、パーカーのポケットに入れた。

一瞬だけ、目を伏せて。

またまっすぐに私を見ると、困ったように笑う。





「そんなこと、言った?」





心の砕ける音がした。

腰に回した腕で、先輩が女の人を促した。

綺麗な髪を肩の上でそろえたその人は、気遣わしげに私を振り返り、だけどB先輩はこちらを向くことなく、歩いてく。



どうやって帰ったのか、覚えていない。

アパートに着く頃にはずぶ濡れで、濡れた足で部屋に上がった私は、フローリングの廊下で滑って転んだ。

ふらつきながらバスルームで吐いた。

どうやってかお風呂を沸かして、ようやくぼんやりと頭の働きが戻ってきたのは、お湯に浸かってしばらくたった頃だった。


今ごろ涙が出てきた。

バカな涙。

どうせなら、先輩の前で出てくればよかったのに。

そうしたら少しは、この痛みを伝えられたのに。


今さら出てこられても。

私ひとりじゃ、抱えきれない。


割れるように頭が痛んで、水面に次々涙が落ちた。

膝を抱えて、声を殺して泣いた。

それこそ、おかしくなるんじゃないかと思うくらい泣いた。


わかってた。

覚悟してた。

でも、期待もしてしまってたの。

もしかして私だけはって、どこかで思ってた。


冷めて、ちょうど体温と同じくらいになったお湯が、誰かに抱かれているような感覚を抱かせた。

耳鳴りの中、先輩の声が蘇った。