「変になりそう?」
必死にうなずく。
「なっていいよ」
「や、怖い…」
「怖くないよ」
優しい舌が、私の耳を濡らす。
唇が、耳たぶを噛む。
「俺もずっと、なってるよ…」
私をぎゅっと抱きしめて。
ささやきながら、くれるキス。
大丈夫、大丈夫と優しく頭をなでてくれる。
そのくせ身体は容赦なく私を突きあげて。
すべてを押し流すような奔流が、頭の中を真っ白にさらっていった瞬間、何を叫んだか覚えていない。
その時私が握りしめたらしい指を、折られるかと思った、とあとで先輩が笑った。
ねえ、B先輩。
あなたが何を考えて、何をしようとしているのか、私はもしかしたら、全然知らない。
だけど信じます。
この温かさを信じます。
だからどうか。
遠くに行かないで。
「お、Bだ」
「知ってる? あいつなんか、最近おとなしいんだって」
「おとなしいって、何が」
そりゃ、あれが、と答えながら、大河内先輩がおーいB、とラケットを振った。
フェンスの向こうを走っていたB先輩が、気づいてこちらに方向転換する。
「B、お前さあ、異文化論って今とってんだろ」
「よく知ってるね」
「え、なんでそんな基礎課程、今ごろやってんの?」
もうひとりの先輩が、ストレッチの手を休めて首をひねる。
パーカーに両手を突っこんで、特に説明しようともしないB先輩を、大河内先輩がどんとひじで突いた。
「こいつ、他学部の授業とりまくってるから、3年次にずれこんでもいい単位は、全部ずらしてんだよ」
「ほんとよく知ってるね」
「それはいいんだけどさ、俺その教授のゼミなんだよ。で、私の授業とってたんならわかるはずとか言ってさ…」