帰る時、明日はいないよ、とか明後日は夜ならいるよ、とか、すぐ目先の予定を教えてくれる。

それを頼りに部屋を訪れると、必ず先輩はいた。


抱きあう日も、そうじゃない日もあった。

だけど結局は、数えきれないくらい肌を重ねた。



9月に入ったある夜。

あまりに足元しか見えない日々に耐えきれず、こわごわと尋ねたことがあった。



「あの、他の人は、どうなってるんですか…?」

「他の人?」

「ええと、たとえば」



たとえば学校の駅の、反対側に住んでる方とか…。

そもそも私がここに飛びこんできた土砂降りの日、先輩はその人の家に寄ってきたんじゃなかったのか。

なのに夜は私といてくれたわけで、それでよかったのか。

ずっともやもやしていたことを思いきってぶちまけてみると、先輩は目を丸くして、読んでいた本を枕元に置いた。

うつぶせていた彼が、私のほうに身体を向けると、清潔なシーツがしゅっと鳴る。



「たまたま着替えを置いてたから、確かにあの日は寄ったけど。夜には彼が来るって言ってたよ」

「えっ、その前にお別れしてたってことですか?」

「お別れっていうか…うーん」



ほおづえをついた先輩が、言葉を選んで黙ったのが、少しショックだった。

枕元のスタンドの光が、円形に部屋をくりぬいて照らす。

浮かびあがった先輩の顔は、困ったように笑っていた。



「…ひとりの相手と、長く続けるのが嫌なんですか?」



この頃には、先輩から借りるTシャツとハーフパンツのセットのひとつが、すっかり私用として定着していた。

先輩はそれを、自分の引き出しにしまわず、とりやすい押入れの上段に、いつも置いておいてくれた。

質問に、ちょっと目を見開いて、隣に横になる私をのぞきこむ。



「ずっと、そんなこと考えてた?」

「…はい」



信じてないの、と責められている気がして、声が弱々しくなった。

でも優しい片腕が、私を抱き寄せてくれた。



「あのね、俺から終わらせたことは、ないよ」

「…いつもふられちゃうんですか?」