キスじゃないことは、直前でわかった。

いたずらっぽく、ぺろりと舌を出して、それで私の歯をくすぐる。

隙間にすべりこんできて、私の舌を舐める。

唇は触れずに、舌だけ。

たまに出る、きっと先輩のくせ。


ぞくぞくする反面、じゃれあって絡む、動物の戯れみたいな感覚もある。

濡れるほど濃密なのに、なぜか健康的で清潔。

B先輩らしいな、と思った。



いつの間にか温まった手と唇と、舌が、じわりと肌を湿らす。

おへそのあたりを探っていた唇が、ふいに下がっていくのを感じて、思わず足を閉じた。



「あの、今日シャワー浴びたの、朝が最後なので」

「なので?」

「その、汗もかいたので」



たので? と無情に訊き返す唇は、進むのをやめない。

昨日だって、あんなに嫌だって言ったのに。

わかってるくせに。

たどり着いた場所からの刺激に、あ、と声が漏れた。

力の入らない指で、先輩の髪を引っ張って抗議の意を伝えると、ぬけぬけと問いかけが来る。



「恥ずかしい?」

「何度も、言ってます」

「そっかー」



残念、という声がしたので、やめてくれるのかとほっとしたところに、また突き抜けるような快感が襲った。

嘘つき嘘つき、ずるい、ずるい、ひどい。

口からこぼれる悲鳴が、悔しさを倍増させる。


ふいに顔を離した先輩は、満足げに私を見あげると。



「恥ずかしがらせたい気分にさせたのは、自分でしょ」



濡れた唇を、犬みたいに舐めながらそう言い放ち、再び私を、これ以上ないくらい辱めた。



セミの声がガラスを通り抜けて、部屋まで届いた。

善さんのつくった畳に、申し訳ないと思いながらも、汗が落ちるのをどうにもできない。

先輩は私で遊ぶみたいにくるくると身体を入れ替えて、次々に快感を見つけさせては、よしよしと頭をなでて褒めてくれ。

これじゃ私のほうが犬みたい、と考える余裕なんて、まあその時は全然なかったんだけど、そんな感じにことを進めて。

終わったあと、震える息をつく私に「どれがよかった?」と訊いてきた。