そう、と先輩がお箸を片手にうなずく。

窓際の障子がところどころ小さく破れていて、そこから日光が筋状に差しこんでいた。

俺もやられた、と見せてくれた右腕は、つつかれたんだろう傷と内出血が数箇所にある。



「どうやって出してあげたんですか」

「鴨居にぶつかって一瞬失神したところを、つかまえた」



その騒ぎで、予定よりかなり早く起きざるを得なかったらしい。

眠い、と目をこする姿が可愛い。


これはきっと、食べたらお昼寝だ。

さらに夜通しまたバイトなら、邪魔するわけにいかない、すぐ帰ろう。

そう心を決めたはずなのに。


食後に、先輩の洗う食器を隣りで拭いていると、ふと目が合った彼に、楽しそうに。

そんな顔しちゃダメだよ、と笑われた。



「ど、どんな顔してますか」



慌てる私をよそに、ん? ともったいぶって、先輩はタオルで手を拭き。

私の手から、まだ途中の布巾とお皿をとり上げて、畳の部屋へ引っぱっていく。


入り口で、ふいに先輩が振り返って、私を柱に押しつけるように、キスをした。

柔らかい音を立てる、心臓がきゅっとなるようなキス。

水をさわっていた冷たい指で、私の手を優しく握って、先輩が微笑む。



「そういう顔は、ダメだって」

「どんな顔ですか…」



また軽いキス。



「男ならみんな、ほっとけなくなっちゃう顔だよ」



頬が熱くなった。

要するに、物欲しげな顔ってことだろうか。

やだ、全然そんなこと考えてなかったのに。

いや、ううん、やっぱり考えてた。



「先輩もですか…?」



男ならみんなって。

おそるおそる訊くと、優しい瞳が、少しだけからかうような、楽しんでいるような光を見せて。

長い腕が、ふわりと私を抱きしめる。



「どうだと思う?」



先輩、眠いんでしょう、身体が熱い。

恥ずかしさを紛らわしたくて、そう指摘すると。

俺の統計なんだけど、と予想外の返事が来る。



「男の性欲は眠気に勝つけど、女の子ってそうじゃないみたいなんだよね」

「………」