「あ、みずほちゃんは安心していいよ。あいつは女の趣味、悪いから」
「さりげなく上げてんじゃねーよ」
ラケットでバコンと頭を叩かれた先輩は、槇田(まきた)先輩といって、私と同じ商学部の4年生だ。
就職活動の息抜きにと言って、こうして4年生たちもたまに練習に顔を出してくれる。
「趣味が悪い、ですか」
「うんまあ、よくはないね…」
あんまり他人を悪く言う人じゃないんだろう、言葉を濁す槇田先輩の言葉を、他の先輩が継いだ。
「あいつ、男グセ悪い子ばっかり選ぶんだよ」
「そういうのじゃないとダメなんじゃね? ビッチ専め」
「ほんと変態だなー、Bは」
ビッチ専…。
ショックが大きすぎて、頭がよく働かずにいると、うしろからかぽっと両耳を覆われる。
「この子に変な話、聞かせないでください」
「ごめん、つい」
私の背後から槇田先輩に厳しく言うのは、真衣子だ。
「何をグダグダ話してるのかと思ったら、バカバカしい」
「真衣子、私別に、平気だし」
ビッチって意味だってわかるし、こういう話に拒絶反応とかないし、そこまで気をつかってくれなくても。
そう振り返ると、背の高い真衣子がじろっとにらむ。
「そういう姿勢が前のめりすぎて、危なっかしいの、あんたは」
「のめってないもん」
「とにかく、こんな話は聞かなくてよろしい」
ぴしゃりと言われて、はあいと返事をする。
そんな私たちを笑っていた先輩のひとりが、あっと声をあげた。
「B発見!」
「マジか、つかまえろ!」
わーっと数人の先輩たちがコートを飛び出し、フェンスの向こうですったもんだやったあと、B先輩を引きずって戻ってくる。