え、というつぶやきは、声にならなかった。

奪うようなキスと、楽しげに絡む舌。

私の胸元のボタンを外す先輩の指が、明るくて健全な部屋の中、妙に背徳的に見える。


先輩、明るいです、明るいです、こんなの無理です。

いきなり全部見られるのに耐えられなくて、じたばたと逃げると、俺が誘われたのに、とわざとらしく心外そうな声をあげられた。

結局は、私の懇願なんて無視された。


つまるところ先輩は、私に弱点を攻められたのが不本意だったに違いない。

それをぶつけるように、泣いて嫌だと訴えた場所にも、容赦なく唇と舌を這わせて。

初めての、甘く強烈な刺激に、自分でもびっくりするような声をとめられなくなった頃。

ようやくタオルケットにすがるのを許してくれた。


先輩が重なってきた時、邪魔だったのか、ぱっとはぎとられたそれに、私は不安のあまり、思わず手を伸ばし。

それを見た先輩は、おかしそうに、だけど、見たこともないくらい優しく微笑んで。

私が安心する位置までタオルケットを引きあげると、その中でゆっくりゆっくり、身体を進めてくれた。



「痛くないみたいだね」

「わかるものですか…?」

「わかるよ」



置き場に困って、畳に這わせていた私の手を、先輩が自分の首に回させる。

しがみつくと、筋肉としなやかな骨格が皮膚の下で動くのが感じとれて、自分の身体と全然違う、と思った。

熱い息を吐く間も惜しんで、唇を重ねる。

その合間に、きっとね、と先輩がささやいた。



「こういうことって、そういうの、わかるために、するんだよ…」



強く抱かれると、先輩の体温が私に移る気がする。

ゆうべはそんな余裕もなかったから、初めて抱きしめ返す、先輩の素肌。


支配されてるのに、征服しているような。

手を引いてもらってるのに、導いているような。


そんな相互の関係が、ふと見えて。


ふたりですることなんだと。

ふたりだけで交わす行為なんだと。

この距離でしか伝わらない何かを、見つけあうためにするんだと。


知った気がした。