「へたり具合なんかは、芯の材質で全然違うんだって。でも突然来ては、いきなり引っぺがして入れ替えてくんだよ、参るよね…」

「一本気な職人さんなんですよ」

「融通が利かないってだけじゃん」



もー、と仕方なさそうな声をあげて、よいしょと私を抱き寄せる。

お昼に出る前にシャワーを浴びた先輩の身体は、ボディソープの香りと、すでにもうこの部屋の匂いがする。

その温かい身体に、夢の終わりが、少なくともあとちょっと引き伸ばされたのを知って。

少しの間、そのことを考えないようにしようと思った。



ふと目が合うたび、当然のように合わせてくれる唇。

おやすみの挨拶なのか、ごく軽く触れては、時たま噛む。


先輩にとっては、もしかしたらそう特別な行為じゃないのかもしれない。

その時々で、そばにいる女の子に唇を落とすのが、彼には自然なことなのかもしれない。

けど私は、触れられるたびにツンと身体の奥が熱くなるような、抗いがたい高鳴りを感じていて。

それが自分だけなのかと思うと、少しさみしかった。


お返しのつもりで、目の前にある先輩の喉にキスをした。

ゆうべしてくれたように、耳たぶのあたりから首筋をなぞって、鎖骨のあたりまで、軽く唇を落としていく。


特に拒絶もされなかったので、もう一度引き返して、耳まで戻ろうとした時。

くすぐったそうに首をすくめていた先輩が、私をぎゅっと抱きしめて、待って待って、とあせった声を出した。



「俺、そのへん、ダメなんだ」

「くすぐったいですか?」

「…そういうことにしといて」



半端な答えに首をひねりつつも、我慢している様子が可愛いので、調子に乗ってみる。

ちょっと、と文句を言いながらの防御が、だんだん本気になってきたなと感じたところで、えいと軽く噛みつくと。

先輩がぎくっと身体を震わせて、吐息混じりの、かすかな短い声を漏らした。