善さんがお店の前で煙草を吸っていた。

先輩について階段を下りた私を見ると、目を丸くして。

意味ありげに笑って、先輩に声をかけた。



「お前もついに春か、B」

「親父くさいよ、そういうの」



相手にもせず先輩は、行こ、と私の手をとる。

あの、とその手を引っぱった。



「これまでのお相手のこと、善さんは知らないんですか」

「だって俺、部屋に誰か入れたこと、ないもん」



言いながらパーカーのポケットから煙草をとり出すと、くわえて火をつけた。

これに関しては、別に喜ぶことじゃない。

だって偶然先輩の住んでいるところを知って、勝手に押しかけただけなんだから。

それでも嬉しさは抑えられず、頬が熱くなる。


顔なじみらしい定食屋さんでも、私は珍しがられた。

先輩は照れるでもなく否定するでもなく、冷やかしをさらりと受け流しながら、私をそばにいさせてくれる。


夢は、朝が来たら覚めるんじゃなかったのかな。

まさか私、まだ寝てるのかな。

もしかしたら、もしかしたら。


これは、夢じゃないのかな。







部屋に戻ると、さすがに暑い、と先輩が冷房を入れた。

これまで見ていた感じで、彼が極力エアコンを使わない主義なのがわかる。

だけど四方から陽が入るこの部屋は、確かに日中は、冷房の力を借りないと厳しい。


布団は廊下の先にある物干しに干してしまった。

急に広々して見える部屋で、所在ない思いでいると、先輩が押入れから枕とタオルケットをとり出したので驚いた。