「…何言ってるか、わかってる?」



弾む息の下、先輩が腕の中の私をのぞきこむ。



「勢いで済むことじゃ、ないんだよ…」

「勢いだけで言えるものなら、とっくの昔に言ってます」



こんなに苦しくなる前に。

そんなことくらい、わかるでしょう。

すねた思いで見つめ返す私に、柔らかなキスが落とされる。

だけど、とつぶやくように言い訳すると、だけど? と吐息の絡む距離で、問い返してくれた。

その優しいささやきに、心が緩んで涙声になる。





「勢いがなきゃ、こんなこと言えない…」





突然、苦しいほど抱きしめられて、未体験のキスが来た。

息をつく間もくれず、激しく征服されるようなキス。

あまりに濃厚で、先輩の身体にしがみついて、仰向けた顔で懸命に受けとめる。

濡れた唇が呼吸を求めてあえぐのすら、許してもらえないみたいだった。



先輩が、私をひざに抱えあげるようにして、少しの距離を移動させた。

唇を合わせたまま、そっと寝かせてくれたのは、清潔なシーツの上。


身体を重ねてきた先輩の背中に腕を回すと、Tシャツの下の体温と、重みに胸がぎゅっとなる。

先輩の指が、まだ濡れたままの私の髪を、頬から耳にかけて、ゆっくり梳いてくれる。

私の頭を抱きしめて、いい子いい子と愛しむようになでながら、優しく、軽く、時折身がすくむほど激しくなるキスをくれる。


先輩の身体から、石鹸と畳の香りがふわりと立ちのぼり。

ぎゅっと抱きついて、その熱を味わった。



窓を叩く雨の音を聞きながら。

海辺の町でのキスが、いかに初心者向けだったかを、思い知らされていた。