おそるおそる部屋をのぞくと、先輩は机に向かって、何か書いていた。
たぶん、手紙。
片ひざを立てて、片腕だけ机に乗せて、ちょっとした思いつきをメモしているみたいに、ペンを走らせている。
あの、と声をかけると、綺麗に無視された。
「あの、ご迷惑をおかけしました」
「よくそれで、子供扱いするなとか言えるね」
ペンもとめず、顔も上げずに冷たい声を出す。
もう寝るところだったんだろう、部屋には布団が敷かれていて、冷房の代わりに少しだけ窓が開いていた。
風向きのせいか、雨は吹きこまず、冷たい空気だけがそこから入りこんでくる。
十分にあったまって、乾いたTシャツとスエットを借りた私には、その風が気持ちよかった。
「…雨戸、閉めないんですか」
先輩が手をとめて便箋を裏返すなり、バンと机を叩き、少し離れたところに正座する私を見すえる。
「今夜はここ使っていいよ、俺は善さんのところに寝かせてもらうから」
「そんな」
追い出すつもりなんて、なかった。
ここにいてくれたら、いいのに。
前回だってずっと一緒にいたんだし、どうして今日に限ってそんなこと。
そんな私の思いを読んだように、先輩がにらむ。
「この間とは、事情が違うでしょ」
「………」
事情って、なんですか。
私が先輩を、好きになったことですか。
いつの間に、しらを切るのをやめたんですか。
「そういうふくれっつら、しないの」
「子供扱いしないでください」
「あのね」
苛立たしげに、先輩がペンを私に突きつけた。
「俺の扱いじゃない、そっちの振る舞いの問題なの。いきなりずぶ濡れでこんなとこ現れといて、それが大人の行動だと思う?」
「ご迷惑をおかけしました」
「迷惑じゃなくって、心配なんだよ、かけてるのは!」
沈黙がおりた。
先輩は不機嫌さを隠しもせず、私をじっとにらんでいる。