「あの、くせで」
「高校、ミッション系?」
はい、と答えつつ、顔が熱くなっていく。
「何かお願いしてたんじゃないの」
「違うんです、なんていうか」
美しいものに出会ったり、何か成しとげたりした時、感謝を捧げたくなる。
そうすると無意識に、手を組んでしまう。
先輩を見つける直前、あまりに風が気持ちよくて、あたりの木々が爽やかできらきらしていたので、そのくせが出た。
誰もいないと思ったのに、見られてたなんて。
私、全然抜け出せきれてないな、と恥ずかしくなりながら説明すると、優しい笑い声が降ってくる。
「いい習慣だと思うよ。無理に直すことない」
「そうでしょうか…」
ほてった顔をあおぎながら歩いているうち、新築の、ガラス張りの棟に着いた。
私はその中のカフェテリアで昼食をとろうと、先輩と別れる間際、ふと尋ねてみた。
「B先輩は、何をしに、この大学に?」
正面ロビーにモダンならせんを描く階段をのぼりかけていた先輩は、振り返って。
少しの間、記憶を探るみたいに視線を外して、沈黙した。
すぐにいつもの、なんとなく微笑んでいるような顔に戻ると、薄手のカーキのパーカーに片手を入れて、私を見る。
「人を探しに」
訊き返そうとした時には、もう姿はなく。
階段を駆けあがる足音が、聞こえるだけだった。