みっともない自分を見られたくなくて、加治くんの声も振りきってその場を逃げ出した。

ちょうど通りかかったバスに飛び乗って、タオルに顔をうずめる。


バカにして。

バカにして。


みんな、私をバカにして。


目の奥が熱くなって、嗚咽が漏れた。


悔しいのは、確かにバカにされる程度の存在だって、どこかで思っている自分。

卑屈で幼稚な自分。

先輩にあたり散らして、癇癪を起こして、それで子供扱いされたら腹を立てるんだから、始末に負えない。


薄く開いた窓から拭きこむ風が、ほてった目元をなでる。

こんなに自分を嫌いになったのは、初めてだった。







ふと気がつくと、もうシフトの終わる時刻だった。

ここは、このあたりで一番大きい書店なので、どの時間帯もそこそこ人の入りがある。

ついぼんやりしがちな自分を叱咤しながらカウンターの中にいると、分厚い経済書が目の前に置かれた。

手にとりながら、学生さんかな、とお客様の顔を見て、息がとまるかと思った。


この間、B先輩といた人だ。


あの時濡れていた髪は綺麗に整えられて、ラフな服に軽くメイクをしている。

震える手でバーコードを読みとり、カバーをおかけしますかと尋ねると、けっこうです、と丁寧な返事があった。


綺麗な人。

講義で指定されるテキストは全部学内で買えるはずだから、これは自分の勉強用ってことだ。

商品を渡すと、どうも、と微笑んでくれる。

ほっそりした綺麗な指で、おつりを全部募金箱に入れて、出入り口の前の雑誌コーナーで少しだけ足をとめて、出ていった。


B先輩が選ぶのは、ああいう人。

そんなこと、わかってるのに。


ちょうどお客様が途切れたところで、社員さんたちに挨拶をして控え室へ戻った。

エプロンを脱いで、このアルバイトのために買ったジーンズも脱いで、着てきた服に着替える。

散々紙に触れていたせいで、水分をとられてかさかさになった手に、クリームを塗りこんだ時。

先輩の手の感触が、まだ残っているのを感じた。