「…どうして、彼なんて」

「だって、この間」



先輩がちょっと驚いたような顔で、言葉を詰まらせた。

その言いにくそうな態度でわかった。

この間、見てたんだ。

私が、先輩たちを見てしまったのと、同じように。



「…彼じゃありません」

「え…」



自分でも信じられないような、頑なな声が出た。

だって許せなかった。


先輩の目が、明らかに、ほっとしてる。

私にちゃんと相手ができて、安心したって。

そう言ってる。



「彼じゃありません」

「でも」

「彼じゃ、ありません!」



悲鳴みたいな声をあげた私に、先輩がうろたえたのがわかった。

何か言いかけて、けど加治くんを意識したのか、途中でためらうように飲みこんでしまう。


かっと頭に血がのぼった。

バカにして。

バカにして。


結局私は、気まぐれに面倒を見てやっただけの存在なんでしょう。

予想外に好かれてしまって、それでしまったと思って、身を引くタイミングを探してたんでしょう。

優しくするだけして、大事なことには気づかないふりをしてきたんでしょう。

しらばっくれたって、もう無駄なんです。


だって。

だって、先輩が今、ほっとしてるってことは。



――私の気持ちを、知ってるってことなんだから。



「ごめん、俺…」

「何が“ごめん”ですか? 気を持たせてごめん? 私なんか眼中になくてごめん?」

「そういう言いかたは、ダメだよ」

「子供扱い、しないで!!」



この期に及んで保護者ぶる先輩に、腹が立った。

困り果てた顔の先輩が歪んで見えるから、私はきっと涙を浮かべてるんだろう。

これだから。

子供扱いされたって、当然なんだ。