何をだ、と真衣子はお腹を抱えて笑いだす。

私はきっと何か、ずれたことをしてしまったんだろうことはわかったんだけど、楽しかったので一緒に笑った。


私はたぶん、それなりに特殊な環境で過ごしてきたので、世間で言うところの常識が自分に備わっていない可能性を、十分感じてる。

それを見つけに、ここに来たんだ。

そういうものを身につけて、一人前になるために、家を出たんだ。


私はここで、成長するんだ。








「その目的は、果たせそうなの?」

「まだわかりません。でも頑張ります」



数日後、また構内で偶然出会ったB先輩にそんな話をしたら、くすくす笑いが返ってきた。

学科違いの同じ学部で、基本的に使う棟が同じである私たちは、これだけ広いキャンパスでも、こうしてばったり会える率が高い。

特に先輩は、なんとなく目立つから、声をかけられる距離でなくても、彼を見かけることは、たくさんあった。


入学してから、一度も雨が降ってない。

曇りの日すらなくて、毎日毎日、綺麗に晴れて暖かい。

新緑の野山に囲まれたキャンパスは、春の匂いに満ちて、まるで私を歓迎してくれてるみたいな気がする。



「さっき、何をお祈りしてたの」

「お祈りして…?」



私は次の時間は、空きだ。

先輩は講義があるらしく、どこか目的地があるふうに中庭を横切るのを、一緒について歩く。

最初、いつも早足の先輩の足を引っぱったら申し訳ないと思って、限界まで早歩きしてみたら、急いでるの? と訊かれてしまった。

理由を説明したら、先輩は大笑いして、今は私に合わせて、ゆっくり歩いてくれている。



「こんなの、してた」



先輩が両手を胸の前で組みあわせた。

あっ…。