きっかけは、学校で栽培していたパンジーだった。


当時のわたしの席からは、中庭に広がる大きな花壇がよく見えて、そこには冬休みの間に咲いたらしい上級生が植えたパンジーが、鮮やかに地面に色を付けていた。

いろんなところでよく見かける花だから、名前も見た目も知っていたけれど、可愛い花だと思ったのはそのときが初めてだった。


普段は勉強なんて大嫌いな癖に、少しでも気になるところがあるととことん調べ尽くしたくなるのがわたしの性質だ。

給食終わりのお昼休み、3年生になってようやく使えるようになった高学年用の図書室に行き、植物の図鑑を手に取った。



パンジーはスミレ科の植物で、いろいろと人の手が加わって誕生した花らしい。

バリエーション豊富な色合いと長い開花時期が特徴で、初心者でも比較的簡単に育てられる種類だそうだ。


なるほどなるほど、と子ども向けに簡単に書かれたその記事をつらつら目で追っていたけれど。

その中のひとつ、特徴だとか育て方とか、そんな役立つものよりも、もっと気になる情報があった。

なんとパンジーには、それよりもちょっと小ぶりな“ビオラ”という仲間がいるらしい。


なんてことだ。

パンジーがあれだけ可愛いのに、それのミニサイズの花だなんて一体どれだけ可愛いければ気がすむんだ。

ぜひ見てみたい、できれば欲しい。

そうだ、もうすぐわたしと春霞の誕生日だから、今年のプレゼントはそのビオラの花にしよう。



決めてからは行動が早い。

帰りに近所の園芸店を覗いて、ビオラが売っているかどうかを確認。

生で見たビオラは思った通りそれはそれは可愛くて、そのまま持って帰りたくなる衝動を抑えるのがとてもつらいほどだった。


だけど今はまだ買わない。

なぜなら学校帰りでお金を持っていないし、まだ誕生日までは数日あるから、その間に枯らしてしまわないこともないからだ。

念には念を、行動は早くしたいけれど、時には計画性も必要だ。