数えるほどしか見たことがない春霞の泣いた姿の中で、とても印象に残っているものがある。


それは、飼っていたハムスターが死んだときだ。



そのハムスターは、まだ500円玉くらいの大きさだったときに近所のおばさんの家から貰ってきたもので。

ジャンガリアンハムスターという茶色い小さな品種のそいつは、そりゃもうひたすらこねくりまわしたくなるほどに可愛らしい奴だった。



わたしと春霞は、見た目の色からそいつに「みそ」という素敵な名前を付けて、毎日飽きもせずにせっせとお世話を続けた。

みそは最初こそびくびくおびえていたけども、そのうちだんだん懐いてきて、飼い始めてから1年も経った頃には名前を呼べばのそりと小屋から出てくるほどになった。


わたしと春霞は心底みそを大事に育てた。

手塩にかけて、だけど「さわりすぎると嫌われるぞ」と父に言われたからべたべた触るのは我慢して。

小屋の掃除も毎日して、えさは無駄に真面目に栄養とかも考えて。


そのおかげか、みそは大変長生きした。


4年近く生きたから、ジャンガリアンハムスターにしては大往生と言えるだろう。


病気もせず、怪我もせず、毎日をのんべんだらりと楽しく生きて。

とくに苦しんだりもしないまま、みそは冷たく固くなってこの世にさらりとおさらばした。