そして、そのたまたまのおかげで生涯不利な位置に立たされる“弟”というポジションに付かされてしまった片割れが、なぜ、“春霞”なんてまるで女の子みたいな名前を付けられてしまったかというと。
それはそのまま、春霞が生まれるまでずっと女の子だと思われていたからで。
そう、春霞はお腹にいる間、なぜだか頑なに自分の大事なところを隠し続けていたのだ。
お医者さんさえ欺くその技量はすさまじいもので、わたしたちを取り上げたお医者さんは両親に謝ったそうだけど、子どもの性別がどっちであろうと気にしない両親は、いたって気楽なものだった。
むしろひとりは女の子なわけだから、もうひとりが男の子だったことは逆によかったんじゃないのか。
そんなことを言い合って笑って、母は何度も切ったお腹を余計に痛めていたそうだ。
だけどひとつ、問題が。
それは子どもの名前のことだ。
気の早い両親はかなり前から双子の名前を決めていた。
生まれの1月にちなんで、“春”の付いた名前。
“瑚春”と“春霞”。
けれど、それは二人ともが女の子であると想定しての名前だった。
男の子なら、きちんと男の子らしい名前を考え直さなければならない。
だけどそこで、気の早さが仇になる。
数か月も前からお腹に向かって「瑚春、春霞ー」と何度も何度も呼びかけてしまっていたせいで、もうすっかりその名前がふたりに馴染んでしまっていた。
今さら変えられない。
だったらどうする。
まあいっか、このまま付けちゃえ。
そして弟は、“春霞”というかわいらしい名前を手に入れた。