「・・・で、どう思う?店長」


アサヒの作詞のノートを見ながら店長は「そうねぇ・・・」と呟いた。


「悪くはないとは思うわよ、でもメジャーをバラードに持って行くのは最初にしてはちょっとねぇ・・・」


「やっぱりそうだよね・・・」


そう言うとアサヒはカウンターに突っ伏した。


「まぁまぁそんなに焦る必要ないじゃない。たった半年でここまで出来るようになったんだから才能はあると思うわよ」


「焦るよ」アサヒは下を向いたまま言った。


「だって俺には優雨や鈴木みたいなスキルがあるわけじゃない。都築がセットリストの常識を言うのも間違ってなんかない。でもみんな俺に曲を作る事を預けてくれてるんだ。だからいい曲書かないと!」


そう言ってカウンターをドンと叩いた。


「頭の中でメロディーはいっぱい嵐みたいに流れるんだ。いいメロだって浮かんでギターで弾くとすっげー安っぽい音になる。作詞だってこのフレーズを使いたいって思ってもどこでどう使えばいいかわからない」


店長はそんなアサヒの前にコーヒーをそっと置いた。


「誰だって簡単に音なんて作れないわよ。みんな苦しんで悩んで寝ないで命削って作ってるんだから。そういう曲が人の心を打つの。だからアサヒくんが今、苦しんでる事はプラスの事なのよ」


「店長・・・」


アサヒが上を向くと店長はニヤリと笑って「コーヒー冷めるわよ」と言った。



あたしは出て行ったアサヒと店長のやり取りを黙って見ていた。




アサヒが作る曲は希望と絶望が見え隠れしている。

でもね、あたし思うの。

その曲が絶望の歌であってもアサヒの言葉なら聴いた人がそこから希望をちゃんと探せるんだって。


アサヒが苦しんでる姿は決して間違ってないんだよ。



あたしは鈴木と都築がギャーギャーわめいているスタジオに戻った。