「それでね、最初は声とか歌詞とかに没頭してたんだけど、ある日気づいたんだ、ベースの音が響くんだよ。それから音楽を聞いてもベースの音に耳がいくんだ。でも、見た目からして僕がロックオタクなんてわかんないよね?」
「ごめん・・・わかんなかった」
「だよね、いいんだ。僕のジレンマは家でベースを気絶するまで弾きまくる事で憂さ晴らししてるんだから」
ベースで憂さ晴らし・・・?
「鈴木君、ちょっと聞きたいんだけどキミ、ベース弾けるの!?」
「うん。僕のバイト代ってベースと機材を買うのに使ってるから」
ふと上月くんの事を思い出した。
『バンドってメンバーどうするの?』
「鈴木君!もー、呼び捨てでもいいや!鈴木、お前ってどっかでバンドやってる?」
僕の剣幕に鈴木は怯えながら首を振った。
「OK。あのさ、俺らバンドやろうと思うんだ。試しにスタジオに一緒に入らない?ドラムの子がリーダーなんだけど」
「僕なんかそんな事していいのかな・・・」
鈴木は下を向いた。
「大丈夫。うちのリーダーは厳しいけどポジティブだから。鈴木の世界も彼女と会ったら変わるかもよ?」
僕の言葉に鈴木は「女性なんですか!?」と驚いた。
「まぁね。ラッキーな事に美人だぞ。性格は男だけどね」
鈴木は「女性の前で・・・しかも美人って大丈夫かな」とブツブツ言っていたけど、俺は強引に明日スタジオに来るように!と言った。