「ほら、もう一回さっきの曲やってよ。あたしが太鼓叩くから」
あたしが言うと龍平はやっと我に返ったみたいで怒り出した。
「お前、一回軽く聴いただけで叩けるわけねーだろ?バカか」
「あのね、言ったよね?あたしはそこらのプロより耳はいいの。ほら、早くしなよ」
龍平は仕方なさそうに周りに合図を送って音を鳴らし始めた。
(こんな感じだよね?)
あたしもそう思いながらドラムを叩き続けた。
「すげ・・・」
アサヒが呆然としてるのを見た。
演奏が終わるとあたしはさっさとドラムから離れてアサヒのそばに戻った。
龍平達は何も言えないでいる。
「わかった?アンタ達の演奏なんて響かない。アンタが言ったバカ女でもあっさり叩ける音に何も心が動かなかった。そんな程度でプロになるとかファンがどうとかアサヒを侮辱するのは許さない」
「でも、アサヒは身体が動かないんだぞ!どうやってギターなんか弾くんだよ!」
それでも龍平は噛み付いてくる。
「あたしは断言する。上手いか下手とかの問題じゃなくてアサヒは絶対人の心を動かすギタリストになる。アンタなんかよりもずっと」
「アサヒ、また恥かいて周りに誰もいなくなるんだぞ!それでもいいのか?」
この言葉は意外だった。
口ではアサヒをバカにしてるけど、実はアサヒの事、心配してるかもしれない。
アサヒは右手を見ている。
それから龍平をまっすぐ見て言った。
「龍平、俺は絶対ギターを弾けるようになる。で、お前なんかよりずっと上手くなってみせるから」