一曲歌ったアサヒは『喉が痛い』と言ってブースから出てきた。
お水を飲んでも「痛い」と顔をしかめている。
「まぁ聴いてみようじゃない」
そんなアサヒを橋本さんは楽しそうに見てアサヒの歌声をみんなに聴かせた。
「あれ?」鈴木がキョトンとする。
声はかなりハスキーにはなってるけど、今までよりハイトーンな部分が出てる気がする。
「何?」
喉をさすりながらアサヒが言った。
「何か声は潰れてるけど、今までで一番高音出てない?」
あたしが言うと聴きながら「確かに」と自分でも納得している。
「日にちが経てばもっと声が出るようになるよ」
橋本さんに言われて「そんなもん?」って顔で首を傾げた。
「声は潰してなんぼだからね」
その理論はよくわからないけど、声の質はずっと良くなってる気がする。
「アサヒくんの声が戻るまでそれぞれの音入れしちゃおうか」
この言葉に全員グッタリとなる。
もう何度もこれの繰り返しで全然OKがもらえてない。
自分では完璧だと思ったドラムラインも「お手本みたい」と足蹴にされてるし。
店長は橋本さんは厳しいって言ってたけど、ニコニコ笑顔でNGを連発する悪魔の様な人だと思う。
OKが出るのはいつの事やら・・・気が重くなってくる。