バンドが背中を向けて楽器を片付けているのをアサヒはまだ見ている。
「アサヒ?どうしたの?」
あたしの声がやっと届いたみたいで、アサヒは急にビールを一気に飲み干した。
「優雨!このバンドのCD売ってる?」
「え?いや売ってるとかじゃなくて自主のCD配ってるけど。そこの物販で」
あたしは後ろの物販を指差した。
アサヒはいうことをきかない足をひきずるようにして急いで物販へ向かった。
物販の女の子に何か説明している。女の子の目はアサヒに釘付け。
まぁ・・・アサヒはイケメンってのは合ってるからね。
タバコに火をつけてあたしはその様子を眺めた。
アサヒは嬉しそうにCDを手に戻ってきた。
「そんなに気に入ったの?このバンド」
「忘れてたんだ」
とんちんかんな答えにあたしは眉間に皺を寄せた。
「何を?」
アサヒもポケットからタバコを出してゆっくり吸い込んだ。
「忘れてたんだ。俺が子供の頃になりたかったのはパイロットだった」
「え?」
「ブルーインパルスって知ってる?」
急に何を言い出すの?
「一応は・・・、航空自衛隊の青い飛行機でしょ?」
「そう。日本で一番早い飛行機。音速ってあれの事なんだって思った。それにあの爆音。今、思い出した」