「うわー、人がいっぱいいるよぉ」


ドアを少し開けてバーを覗いて鈴木が言った。


ライブの日、当日。現在午後10時半。

ヘンリーさんのバーは陽気なアメリカ人の笑い声や、勝手にピアノを弾いている女性、とにかく人がいっぱい入っている。


「もー、今更そんな事言ってどうするのよ。昨日言ったじゃない。50人は入るわよって」


あたしが呆れて言うと「そ、そうだよね」と鈴木が生唾を飲み込んだ。


振り返って見ると、チューニングをひたすら続けているアサヒと鏡で髪型をチェックしている都築。


「お前ら、服装それで本当にいいワケ?」


都築が言う。

そんな都築が黒いシャツに黒のパンツ。


「あんたこそ黒装束みたいな服でいいの?」


あたしが言うと「ギターが惹きたつだろ?」という返事がきた。


あたしはゆるいカットソーにショートパンツ。

鈴木はチェックのシャツにミリタリーなハーフパンツ。

アサヒはラグランのTシャツにジーンズ。


「お前、この中で1人だけ浮いてるけど」


アサヒがチューニングをしながら都築に言った。


「目立つ事が大事なんだよ」


都築の言葉に『はいはい』と全員が言う。






もうすぐ、あたし達の初ライブが始まる。