ヘンリーさんの答えは「それが一番、タイミングが合うんだよ」との事。


「アサヒ、足音ってどんな感じ?」


鈴木がアサヒに聞いた。

それは重要な事だ。

センターにいるアサヒの足音が全員に聞こえないと曲に入れない。


「What should footsteps do?」(足音ってどうすれば?)


アサヒの質問にヘンリーさんは立ち上がって、片足の踵を軽く上げて下ろした。

静かなバーの中で「トン」というすごく小さな音がした。


「無理!!」


都築が首を振る。


「ライブハウスのザワザワした場所でそんな音聞き取れないし、アサヒが目を閉じるクセ、あれ全員やるわけだよな?それは精神統一って意味で多少は納得したし、必要ならやるけど、足音なんて聞こえねーよ!」


「都築に賛成!!だってあたしドラムセットの奥にいるんだよ?聞こえないわ、見えないわでどうすればいいのよ!」


「それは僕も同じ。いくら隣にいるっても始まるまで目を閉じるんでしょ?わかんないよー」


「だよな?俺も思う。足音ってなら・・・」


アサヒが勢いよく床をドンっと音がなるくらいに踏みつけた。


「こんくらいじゃないと難しいだろ?」


その音なら全員聞こえるけど、膝を思い切り曲げて床を踏みならさなきゃその足音は出ない。


「足音重視ならそれしかわかんねーな。でもギターボーカルがそれやったら激しくダセーな」


『同感ー』


そんなあたし達をヘンリーさんは笑顔で見ていた。