「面白いね」
アサヒは何度も自分の足を叩いている。
「アサヒ、下手くそだけどね」
あたしは笑った。アサヒも苦笑いをしている。
「聞いてもいい?嫌なら答えなくてもいいけど」
「何?あぁ、身体の事?」
あたしは頷いた。
「これは・・・」
アサヒは大学4年生。
顔を見てもわかるけど、それまで女の子にも苦労した事もなくて、高校までやっていたサッカーでは選抜メンバーに選ばれたり、それは他人がうらやむくらいな順風満帆な生活を送っていたらしい。
3年の時に大手のメーカーに就職も決まって、4年になってすぐ・・・今から半年前にその会社に正式に契約に向かっていた。車で。
信号で停まっていると、突然後ろからすごい衝撃がきてシートベルトをしていても、フロントガラスとハンドルに身体を思い切りぶつかった。
よそ見運転していたトラックが信号とアサヒに気づいて慌ててブレーキを踏んだけど、追突されてアサヒはそのまま病院に運ばれて入院。
段々とはよくなってきてるし、少しの後遺症で済むけど、右半身があまり動かなくなった。
全治半年。リハビリに1年。
決まっていた会社からは内定取り消し。
それまで自分の周りに集まっていた人間は「可哀想な人」という目でアサヒを見るようになった。
その目に耐えられなくて、1ヶ月前の退院してから大学には行っていないという。
アサヒの順風満帆な人生とその自信に満ちた性格はその事故ですっかり変わってしまった。
今日はリハビリの帰り、介護タクシーが送ってくれると行ったけど、天気がいいからのんびり歩いて帰ろうと思っていたら、黒人女性と何か揉めてるあたしを何となく見かけたら人にぶつかって転んでしまって、立てなかった。
「そしたら優雨が黒人女性を怒鳴りつけて走ってきてビックリした。助けてくれるとかちょっと期待したら『自分で立ちなさい』だし」
そう言って笑った。