あっという間に時間は過ぎて、渡米10日前にヘンリーさんから航空券が届いた。


スタジオでいつも通り練習。


前みたいにそれぞれ勝手に演奏してギャーギャー騒いでるあたし達じゃない。


航空券を渡すとみんなで盛り上がった。


「うわぁ、初ライブ!初アメリカ!ドキドキするね!」


航空券を見ながら鈴木がいつもより大きな声で言った。


「鈴木、人前って苦手だろうけど大丈夫?」


「うん!だっているの外国の人でしょ?だったら僕の事知らない人だから平気」


「それならいいけど・・・、おい、そこの2人。何そのテンションの差」


あたしはため息をついてアサヒと都築を見た。


都築は上がりっぱなしのテンションで、練習以外はTVでおなじみのス○ードランニングをいつも聴いている。

今も耳にはス○ードランニング。それで航空券とデンバーのガイドブックを手にニヤニヤしている。

そんなんで英語喋れるようになるかよってツッコミたくなるけど。



一方のアサヒは航空券を手に壁にもたれて死んだようになっている。


「アメリカ・・・、俺アメリカでギター弾きながら歌うなんて無理・・・」


呪文のように繰り返している。



「アサヒ、発音なんて気にしなくていいんだからね。そこまでみんな聴いてないんだから。それに『Clear up tomorrow』以外は日本語でしょ?」


あたしが言ってもぼんやりしながらブツブツと呟いている。


「俺、人前で歌った事ねーし。いきなり人前がアメリカ人・・・」


「だからいいんでしょ!ここで初ライブやるよりはいいんじゃない?」


「アメリカ・・・人前・・・歌・・・ギター・・・」


あたしは初めて思った。

(このメンバーで大丈夫なのかな?)