「都築、32万のギターさっさと買っちゃうのってやっぱり金持ちなんだね」
帰りの車。アサヒの車には楽器がわんさかとつめこまれてて、後部座席をも支配している。
「まぁな。カードだし。俺の金じゃねぇってのも気楽だけど」
あたしは都築の言葉に心底呆れた。
「あんたさ、もっと苦労ってものをした方がいいよ。親のスネばっかりかじってないでアサヒと鈴木見習いなよ」
「知らねーよ、俺んちがたまたま金持ちってだけ。それに俺はこう見えても慎重なんだよ、今日だって買う気なかったし。でも弾いてみたらヤバかったな」
「まぁさ、楽器が出会いなんだよ。よかったね、都築くん」
窮屈な後部席で鈴木がニコニコしている。
アサヒを見ると都築のそんな衝動買いなんて全然気にしないで鼻歌を歌いながら運転いている。
・・・、あたしだって楽器へのこだわりはあると思う。
ドラムの前に座った瞬間、何か違和感を感じたりする時もあるし。
どこかへ行く時に出来るならスネアとキックペダルくらい持ち歩きしたいし。
キックペダルは持ってるけど、スネアは持っていない。
スネアってのはドラムの左側の低い所にある太鼓の事。これを持ってるドラマーは結構いるけど、あたしはない。
それを買うお金があればどこかの国に行きたいってそっちを優先しちゃうし。
でもキックペダルは絶対自分のじゃなきゃ嫌。
バスドラ(足で鳴らす太鼓)を鳴らすのに必要な物。自分の足にしっくりこないといい音が出せない気がするし。
でも、店のドラムは特別。
無理にキックペダルを持って来なくてもしっくりくる。
やっぱり店長の楽器へのセンスってすごいなって思う。機材に関しても。
「これでアサヒの曲の完成を待てば、アメリカだねー」
あたしが呟くと、
「待ってろよ!!デンバー!!」
と都築が叫んだ。