「で、アサヒくんどうよ?」
隣でコーヒーを飲みながら上月が聞いてきた。
「うん・・・」
あたしは今までの経緯を簡単に上月に説明した。
上月は相槌を打つだけでしばらく黙って聞いていた。
それから、
「優雨、それって普通の事だぞ」
とあっけらかんと言った。
「え?」
「喧嘩なんて超普通。追い込まれて作曲するのも超普通。ま、おたくのバンドの場合は優雨のバカなくらいなポジティブさと鈴木くんの優しさが中和剤として保たれてるって感じでまだ救いようあるけど」
そう言うとニッコリ笑った。
「まぁ、上月のバンドなんて怒鳴り声が聞こえない日はないよね」
店長もうんうんと頷く。
「そういう・・・もんなの?」
「だってさ、ほらみんな人間だし、それぞれ考え方も違うしそれにバンドマンなんてエゴの固まりだぞ?自分達、または自分の曲や演奏が一番だって思ってるに決まってるじゃん」
上月は続ける。
「例えばさ、俺もそうだしアサヒくんもそうだろうけど作曲した時にはもうどんな音が一番気持ちいいか決まってるわけ。で、その気持ちいい音を周りがやってくれないとイライラする。周りは周りでこの音がいいって音を出すけど作曲したヤツからNOの返事がくればイライラ倍増。逆を言えば、自分が思ってるよりすっげー音出してくれたらそれはそれでまた気持ちいいわけ。要は信頼関係がなきゃ成り立たないし、ぶつかって当たり前。そうやって喧嘩して互いのエゴを出して成り立っていくんだよ」
「今、あたし達が追い込んでるとか追い込まれてるとか思うのは当たり前って事?」
「そういう事。追い込まなきゃいい曲なんて出来ない。だから喧嘩してでも何でもアサヒくんを追い込めばいい。都築くんをヘタクソって怒鳴ればいい。鈴木くんにお前も頭捻れよって言えばいい。もちろん自分も妥協しない」
あたしはポカンとしたまま上月を見ていた。