「楠原……」
そっと、ゆっくり早瀬君の右手が私の顔に伸びてくる。
図書室の本達が、一斉に私達2人に注目しているような気になる。
緊張が最大級になり、全身の産毛が逆立つような感覚。
「髪、食ってる」
ふっと笑いながら、私の頬に触れ、早瀬君は私の口に挟まっていた一筋の髪を取ってくれた。
ツ……と、唇を糸のように伝って抜かれた髪の毛の感触。
肩より少し長めの黒髪1本が元あった場所へハラリと戻る。
一連の一瞬の流れが、まるで映画のコマ送りのように感じた。
「あ……」
私は赤くなる余裕すらなく、固まってしまった。
目の前で早瀬君が微笑む。