「……」


ドキリとし、目をパチクリさせる。


「可愛いね、楠原」


無表情の口元だけが緩く上がっている。


ただそれだけで、とてつもなく優しくも妖艶な笑顔に見える。


「な、っ何言って……」


「今日も一緒に帰る?」


「へっ?」


続け様に訳の分からないことを言う早瀬君に、私はパニックを起こす。


心の中はあたふたしてどうしようもないのに、体は硬直したまま、ただまばたきの回数だけが異様に増える。


「あ――」


カラカラカラ。


その時。


図書室入口の扉が急に横に開いた。


「孝文~、帰ろうぜ」


一気に図書室の静寂が破られる。