カチャリ。
5時になり、廊下に出て図書室の鍵を閉める。
あ……、まだ練習してるんだ、吹奏楽部。
トロンボーンは、いつもと同じところでまた間違う。
私はフフ、と笑ってしまった。
職員室へ向かおうと、振り返って1歩進む。
「わっ!!」
びっくりした。
ぶつかるところだった。
足音も無く、目の前に人影があったから。
静かで誰もいない廊下を夕日が彩色する。
自分とその人の影だけが、少し長めに灰色を落としている。
「おつかれ」
聞き慣れた声が頭上から降ってきた。
私は、ゆっくり、とてもゆっくり顔を上げる。
あ……、という声を出したつもりだったが、実際には出ていなかった。
それくらい、私は驚いた。
さっきまでグラウンドで走っていた早瀬君が、サッカー部のユニフォームのまま、眼前に立っていた。