「あんたが走ってる姿の油絵。
完成せずにまだアトリエの奥に立て掛けられてる」
「――っ」
声が出なかった。
驚き過ぎて、目を見開くことしかできない。
「ここであんたに会った時さ、“どっかで見たことある”って言ったじゃん。
ようやく思い出して。
確かめに来た。
それだけ」
「……」
私は立ちすくんだまま何も言えない。
嬉しい、よりも、切ない。
そんな気持ちが私の体内に充満していく。
カラカラ……。
足を進め、ドアを開けかけた木之下君が、またちょっとだけ振り返る。
「孝文、いい奴だよ」
少しだけ口元を上げてそう言った顔は、ほんの少しだけ早瀬君に似ていた。