――その時。


ふわっと小さな風が起こった気がした。


「悪い、深沢。
今日、新刊書籍の登録と整頓業務があって忙しいんだ。
楠原、貸せない」


――え?


顔を上げると目の前に一面の白が広がった。


「……」


……早瀬君の背中だった。




「あ、ああ。
そう……。
そっか。
果歩りん、図書委員だもんね……」


驚いているためか、少し上擦った恵美ちゃんの声。


「うん。
ごめんね」


そう言うと、早瀬君は私の腕を掴んでそのまま外へ引っ張っていった。


勢いで、高田君の手からするりと抜ける。


慌てた私は自分のカバンを握るのが精一杯で、恵美ちゃん達に何も言えないまま、その場から離れた。