「……」
狭くて早瀬君の後ろ通れない。
「あ、悪い」
気付いた早瀬君は椅子を前にずらして隙間を作ってくれた。
カタン。
座って、私もパラリと本をめくる。
「それの犯人、主人公の恋人」
「……」
本を持つ手が一瞬止まる。
えーと……。
でも、なんか悔しくて、私は無理に読み進めようとした。
「ぶっ」
クックックッと、普段無表情な早瀬君が笑う。
私は真っ赤になってしまった。
「図書室では、し、静かに」
「ははっ。
楠原って、面白い」
「……」
楠原……。
中学から思い返しても、今、初めて名前を呼ばれた。